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STEP(HTML版)

STEP(第212号)

首都圏の景勝地・逗子市に、激震が走った
個人会員 石川禎佑

去る月5日午前8時頃、逗子市の市道において斜面の土砂が崩れ、(写真参照)通行中の女子高校生(18歳)がその下敷きになって亡くなる事故が起きました。

住宅街の歩道が人の背丈ほどに埋まった生々しい事故現場

逗子は海辺の松並木と三方を山に囲まれた緑の豊かさを誇る居住地・リゾートとして、明治以来多くの文人や東郷元帥をはじめ横須賀に通う海軍さんに愛されてきた静かな街でした。葉山御用邸とその南に延びる三浦半島の玄関口の役割も有りました。バブル期以降、経済的利益を優先した開発プロジェクトが次々と施工され、斜面緑地や多くの谷戸が削り取られ自然植生も広い範囲で消滅してゆきました。 40年前、小生も息子の喘息対策とはいえ、その開発住宅地に東京から移住してきた余所者の一人でした。言わば、加害者側の人間です。

当地で育った被災者は、小生の孫娘と同年輩だっただけに、他人事とは思えず、長く通学路として親しんできた巾広い市道からこのような酷い仕打ちを受けた不運には、涙を禁じえません。

国土交通省の専門家チームが2月末、同省のホームページで公表した報告書には、「逗子市では1月28~29日に連続降雨量34mmを観測した後、まとまった降雨は無かったが、”地質は三浦半島特有の凝灰岩の風化層”であり、低温・凍結・強風の複合的作用で、土砂崩壊に至った。「斜面地はマンションの日陰に当り、斜面の植生は貧弱で根を張る樹木は少なかったこと、そして崩壊斜面を調べた結果、崩壊巾8~9m”深さ1.6m斜面傾斜角54度であった」と記載されています。

本事故の対応策につき栗原理事には数度にわたり多々アドバイスを頂戴し、川添さんの図面を含め、神奈川県議会の近藤大輔議員に届けております。(その技術的内容については、栗原理事の解説をご参照下さい。)同議員は鎌倉・逗子・葉山地区唯一の選出議員であり、従来よりフォレストベンチ工法に深い理解を示しておられます。本件は類似地層の三浦半島全体に係る案件であるとし新しい工法に極めて、保守的な県土木工事関係者へのプレゼンテーションを励行中です。

畠山重篤氏の提唱する“森は海の恋人”運動に倣い小生ら逗子の仲間は、約10余年に亘り、約3500本のドングリから育てた常緑広葉樹の植樹を小学校や運動公園に、施してきました。

現実の世界は、急速な地球温暖化の進展に備え、我々の生存基盤の安全・安心強化に多大な努力を求められる時代に入りました。我々昭和初期世代には、先ず高度経済成長時代、国土改造の大義の基に、実施してきた諸々の結果の付けを清算する責任が有るようです。

フォレストベンチ工法がその発展型を含め、本件のような事故の再発を如何に効率よく防止できるか、大いに期待すると共に、ささやかながらサポートを続けさせて頂きます。又、本工法が強い緑の保全・育成を指向してきた宮脇昭横浜国大名誉教授のドングリの木による“いのちの森”構想と融合したハイブリッド工法として広く世に認知されていくよう願っています。

気候変動克服は、引張力が狙う
フォレストベンチ研究会 理事 栗原光二

1.「引張り力との出会い、アンカー永久化への展望」

高速道路の建設を目指して道路公団へ入社した私が最初に担当した工区は、岩手県花巻市と盛岡間に位置する紫波町でした。東北道の中でも奥羽山地の山裾を通常の切土・盛土で通過する何の変哲もないルートでしたが、いざ表土を剥いでみると、何と中世の山城跡“柳田館が出現したのです。文化庁との協議では、ルート変更してでも遺跡を避けて欲しい、というものでした。しかし公団は一関から盛岡までの84kmを2年後に開通させる計画であり、本社を含めて、どのようにすれば遺跡保存と高速道路開通が両立出来るか、模索する日々が続きました。そこで浮上したのが(連続地中壁)をアンカーで支える工法でした。

しかし公団にとってその両者共未経験であり、殊にアース(土中)アンカーに関しては土木学会等において「何れ逐次破壊で抜けるからで永久構造物では禁止する」という方針であり、公団も右に倣えの状態でした。中には巨大地震が襲来せずとも、アンカーに荷重が掛ればズルズルと抜けていく、と考える人も居られました。逐次破壊とは、アンカーが引張り力を受けて伸びると、変位が大きくなった所から次々と地山との縁が切れて、終いには抜けてしまうという懸念です。鉄筋コンクリート工学で教わる内容と、同じ考えでした。

直前まで学生だった私にとって、高速道路の開通は初めてだった上に、(連続地中壁)は未経験者ばかり、そして頼るべきアンカーは永久使用が禁止されており、実に心細く私は目の前が真っ暗になり、一人窮地に陥りました。

約半世紀前に高速道路に登場した連続地中壁 壁全面の突起はアンカーの定着部

しかし、ベテランが未経験なら新入社員にもチャンスありと開き直り、アンカーの周囲面のグラウトと地山との接面状態は、コンクリートと鉄筋との関係と少し違うのでは無いかと考え、私はそこにスポットを当てて文献を漁りました。するとある文献に、土砂の膠着状態は一度縁が切れても1~2年経つと、初期強度の半部で復元すると、図解されて説明されていたのです。私は欣喜雀躍し、直ぐさまそれをレポートにして公団本社の技術検討会へ持ち込みました。並み居る先輩方に説明したのですが、逐次破壊説を信じて疑わなかった人達からの反論もなく、疑念は一挙して晴れて、念願の開通も予定通りに実現したのです。

今にして思えば、“レオロジー的要素”(動的平衡)に通じた知恵者が、アンカーの将来を憂えて布石を打たれた資料だったのではないか、と思います。その後数十年して、“アンカーにロック・アースの”差別“は無くなり、土工指針でも、定着力はN値をベースとするアンカー周面摩擦で表現され、アンカーを巡る環境は一変し、合理化が図られています。

そして何より嬉しいことは、紫波町の連続地中壁が、東日本大震災を含む太平洋側海溝型の巨大激震を6度受けて、現在も直立を保っていることです。但しこれからの懸念事項は、アンカー本体鋼材(テンドン)の耐食性であろう、と考えています。

2.引張り力は、進化する

以上、“アースアンカー”が約半世紀も健全を保ったことをご紹介しましたが、この間にアンカーを巡る認識は大きく変わりました。土木事業における引張り力の役割は、アクロバット的に躍進し、社会資本における枢要な技術としての地位を確保しました。

フォレストベンチ工法でも安定の原点として置かれ、気候変動克服の根源とすべく日々工夫を凝らしています。その実態と経過について次に述べてみたいと思います。

A.(一次 発見) 初めてのアンカー使用で、いきなり耐久性半世紀を実現
(定着力の“しなやかさ”は鉄筋コンクリートを凌ぎ、アンカーの永久化を提唱)
生命の世界だけでなく、「動的平衡」は、地中にも存在すること。
アンカーの引張り力の半世紀に及ぶ安全は、営力による災害の抑止に効果的であり、力として長期の安心を生む。土工指針における定着力を改定へと導く。

B.(二次 改善)ボルトの放射状使用で アンカーの多次元化を図り、引張り力の立体使用への道を拓いた。(写真参照)「ワイヤーに比べ5倍の引張り耐力を得た」
“引張リング”と“Vボルトの開発”で、アンカーの支点を多点構造とし、一点の引張り力はタコ足状に広がり、安定と強度向上によって低コスト化した。

引張力を点から面へ拡張し、引張力バランスを高度化した事例

C.(三次 万能化と低コスト)「新型座金の開発」で、引張り力の3D化が実現。
引張力の国土防災力を面的拡張で無限へと導いた。気候変動に対し、防御態勢の無限面的広がりで、国土から防災盲点を無くした。(アンカーの不動とパイプフレームの曲げ抵抗の導入及びのり面全体を網で覆い、緑化階段(次のレポート参照)のポケットで、落下土砂を収納し、同時に樹木の根茎でのり面自体の強化を図る)座金の反力を用いれば、アンカーによる再緊張が可能となり、既存工事の歪み修正によって、正常に戻すことが容易となった。

3.アンカーを固定物と位置付け、安定の“広域化と低コスト化”を図る

D19㎜の全ネジボルトの降伏強度は10トンと規定されています。それを5mの長さのアンカーとして用いると、そのグラウト外周の総面積は、3.14×5㎝×500㎝で計算すると、7,850cm2です。N値(標準陥入試験値)で換算される摩擦抵抗値は最低値10の場合で1.4㎏/㎠ であり、その積で総抵抗値を求めると“11トン”を超えるので、長さ5mのアンカー全体が 土砂の摩擦抵抗で覆われて、抜け出ることが出来ないことになります。

アンカーの引張り耐力より大きな荷重で引かれると、鋼材が破断によって破たんしてしまいますから、外力対して渾身の力で抵抗しますが、「広域化と低コスト」によって広範に受け持たせることにより、安全と安心は向上します。

何れにしても、営力の分担は弾力性の高い鋼材によって、広く分散して分担され、安全も安心も高まります。そこで開発したのが”3D型座金”です。アンカーと4本のパイプを一括に結束して、営力に対し一挙に分散・緩和が実現しました。

引張り耐力が10トンを超えたことは、コンクリート塊にすれば、4m3の巨大物に相当し、通常のり面においてこれを超える営力は少なく、容易に可視化出来る大きさです。

今回の逗子市の事故では、落下した土砂を阻止する抵抗物が皆無であったこと、その存在が見届け無かったことが原因だったと指摘されています。のり面の樹林化も重要要素と考えていますが、樹木の存在は危険の可視化に優れており、安全・安心の要と言えます。大事なことは、のり面の中に低コストで不動を確保する技術では無いかと考えます

4.既設施行事例の更新・修正・修復への対応

気候変動に伴う降雨強度は、現在猛烈な勢いで増加し、フォレストベンチの施工地にも襲い掛かっています。時と共に老朽化・劣化が進みますから、既設の施工地に手を加える必要は感じて参りましたが、記録的短時間豪雨に先回りされたように感じます。

記録的短時間豪雨で捉えると、これまで50㎜が1時間降雨量の目安でしたが、近年はそれを遥かに超える150㎜が記録されること度々です。しかも雨期だけでなく、大気が不安定になれば冬期でも発生するようになっています。気候変動とはこういうことなのでしょうが、過去に照らせば“不意打ちを食らったようで”油断ならない時代を迎えたようです。

昨年初めの石川県能登町の事例では、豪雨の予報を受けて現場に急行した県職員の目撃情報では、民家裏山の水路から流下した豪雨は、5段のフォレストベンチの最下段へ向けて

まるで“かけ流し“のように雨水で満たした末に垂直壁が傾き、土砂崩壊に至ったとのことです。垂直壁の背後底部には有孔管が配置してあったのですが、排水が水位の急上昇に追い付かず、土圧と水圧が同時に掛り、引張り力の要であるワイヤーの一部が切れて、破たんに追いこまれた由である。県が施工指導した経過から、埋め戻しに用いた粘土質土が災いしたとの判断で、砕石を用いて修復を実施され、その後は無事である。その後、東京都の日の出町、茨城県の取手市で類似する不具合が起きたが、共通するのは、施工前のり面に埋められていた大量のゴミが、排水の障害の原因を成していたことです。

フォレストベンチ工法は、これまで有孔管埋設によって間隙水圧上昇を阻止できると考えて、無事の記録を更新して参りましたが、今後は予めのり面の土質・地質に留意して、記録的短時間豪雨等の熾烈さに備える必要と、引張り材強化を図る必要があります。

施工済みの箇所の不安と不具合に関しては、前面からアンカーの増打ちとパイプフレームとの組み合わせに加えて、前記「新型座金」の適用による、“再緊張が有効”と考えます。
気候変動に対しては“災害の未然防止”だけでなく、過ぎた時間に対しても責任が持てる技術と誠意で、対処して行くべき」と考えています。

「土砂収納・緑化階段工」の図面(CAD図)作製を担当して
フォレストベンチ研究会 宮崎支部 川添祐一郎

この度、栗原理事から指示された上記図面を作成しながら、防災力としてどのような内容が盛り込まれているか、感想を述べて見ることとしました。実は、パイプグリッドについては、その施工初期段階で接した一人であっただけに、フォレストベンチ工法から分岐し進化したこの工法に、今度はどのような機能が備わったのか、興味津々だったのです。

図に示すように外見上は、プリズム状ポケット(階段工)がパイプフレームの外側に設けられていて樹木の生長によって壁面が覆われても、凹型のポケットは空っぽに保たれ、これがのり面からの崩落土石の待ち受けポケットになっています。傾斜によって異なりますが、理事の計算によれば、階段の延長当り、ダンプカー1台相当の土石が収納できるそうです。

次にアンカーの機能について、新しいことを学びました。長さ5mのアンカーを地中へ打設したとき、その周面摩擦(付着力)によって、鋼材は降伏強度を超える力で地中へ固定され、地中に不動部を成すことを知りました。

逗子市で起きたこの度の事故では、のり面土石の落下を止める遮蔽物は全く存在せず、植生も育っていなかったとことが、専門家から指摘されていました。せめて樹木だけでも育っていればと思うと、残念でならないし、アンカーに繋がれたパイプフレームと金網が、のり面を面的に覆っていれば、結果は全く違っていたと思います。何より便りになるのは、次に図の中に示した3次元の座金によって、単管パイプ4本が、パイプフレームとして十字に組まれ、それがアンカーによって、地中に繋がれることです。のり面上で浮いた土石が有れば、“緑化階段工”のプリズムポケットによる土石収納機能と合わせて、崩壊土石は、二重三重に止められる仕組みです。

亡くなった若い高校生の無念さを想い、その年齢を数えるような無念な話ですが、何と言っても高所の土石を不動にする力学的仕組みを備えるべきでした。津波の際に、ヤシの木の枝にしがみついて助かった命があることも聞かされます。自然の営力は、手を変え品を変えて、我々の命を奪おうとします。その時に備える手立ては、頼りになる静止物・不動物を用意しておくことです。しかもそれは、経済的で低コスト・長命であることが、栗原理事の主張です。つまり手軽で安上がりであれば、人々の命に多くの機会を以て接し、救うことが出来るからです。

概して重いもの、高価なもの、手のこんだ物は、宝の持ち腐れになってしまい兼ねません。単管パイプは一般に、“作業足場”として建築の資材として多用されますが、その軽量さ、しなやかさ・低コストで捉えると、何とも実用的です。しかも耐食性という観点で捉えると、ZAM仕様やどぶ漬けメッキなど、低廉で長命な措置が施され、我々の知らないと延命力をもって、暮らしを支えています。

(緑の力を安全のシンボルへ)

緑化階段に育成される樹木として、ブナやクヌギ・ケヤキ等の広葉樹を用いれば、600年の寿命を以て身近なのり面を覆い、根茎を張り巡らせて地盤に引張り力を及ぼして緊縛してくれます。その根は樹冠範囲の数倍に広がり、風化・劣化した地表の土石を繋ぎ止めて、静止させて人々の命を守ります。その後は、天然交代次世代の命を繋ぎます。

気候変動に伴う記録的短時間豪雨や局地的豪雨等から、命を守るには、防災・減殺活動が欠かせませんが、防災機能の評価は失われた命の数で図るものでなく、救われた命で評価されるべきです。 森の力が、防災力の象徴として人々の目に映るようになれば、森の不足は安全の不足として認識され、安全が可視化されてより防災力は身近なものになると思われます。

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