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STEP(第210号)

この秋、千葉県を襲った3度の台風と豪雨。これから学ぶべきもの

個人会員 戸村澄夫

 

ゴルフ練習場の鉄骨が複数の民家を破壊した

千葉県を襲った3度の台風・豪雨。9月9日に台風15号が猛威を振るい、高圧線の鉄塔を倒壊させ、コンクリートの電柱をなぎ倒し、市原市ではゴルフ練習場の鉄柱を倒して複数の民家の屋根を破壊する事故まで引き起こしました。

そのあと10月12日に台風19号が続き、前の台風で屋根が飛ばされて覆われたブルーシートを再び強風で剥ぎ取り、家の中に滝のような雨を降り注がせました。さらに、その2週間後の10月25日に台風21号(豪雨)が被災地を容赦なく襲ったのです。

 

「ゴルフ練習場の鉄柱が複数の民家を破壊した」

道路は川のように濁流が流れ、多くの住宅で床上まで浸水しました。台風21号だけで、福島県と合わせて死者10人、行方不明者2人という惨状でした。

千葉県では、これまで比較的台風や豪雨による災害は少なかったのですが、今度はこれでもか、これでもかと狙い撃ちされた感じです。

もう、日本中どこでもここは安心というところはなくなりました。

おりしもフォレストベンチ研究会の栗原理事より、新潟大学工学部大熊孝名誉教授の「新潟豪雨災害から今後の治水を考える」という論文を送っていただきました。

 

新潟大学大熊孝名誉教授の論文(平成18年の新潟豪雨災害を経験しての論考)の主旨

 

1. 異常気象による豪雨は、これまでの経験に基づいて計画的に設計された河川の堤防の高さや強度をはるかに超えた規模で襲ってくる。

2. それも九州地方とか四国地方とかの地域を限定されたものではなく、新潟でも北海道でもあらゆるところで起こりうる現象である。

3. したがって、完全にこれに備えることは不可能である。新潟の豪雨災害を見て思うのは、河川の水位が上昇して堤防を越流したところでは、床上浸水や床下浸水程度は起きていても激甚な災害は起きていない。

4. 堤防が決壊したところでは、天井まで浸水し、あるいは家が流されるという激甚災害が起きている。

5. これからの治水対策は、ある程度の越流は許しても破堤させないことが重要である。上流で高堤防によって完全に越流を防げば、下流では水圧が増加して破堤の危険度が増大することになる。

6. 計画規模をはるかに超える超過洪水に対しては、破堤させずに越流氾濫の被害を全流域で分散・分担することである。

7. 具体策としては、「堤防沿いに樹林帯を設けて、水害防備林で流速を弱め、土砂も樹林帯の中でろ過・沈殿させていけば大規模な破堤は起こらず、被害を相当緩和させることができる」というものである。

8. 河川敷に樹林帯を造り、エコロジーに貢献するこの工法はまさしく、斜面に水平面を作り植栽して土砂災害を防止する「フォレストベンチ工法」と軌を一にするものである。

 

・私の視点

 

私の住んでいる近くに飯山満川(はざまがわ)という川幅4mほどの2級河川が流れています。普段は住民の生活に溶け込んだ極めて静かな川です。

数年前の豪雨で、越流して300戸ほどある住宅街の道路に泥水が流れ込んだことがあります。当時自治会の役員をしていたこともあり、住民の意見を結集して、二度と起こらないようにと防止策を県に申し入れました。具体的には、飯山満川の水位が上昇した時に、氾濫しないように護岸の一部をかさ上げするとともに、調節池を作って自動的に調節池に流し込む対策を講じていただきました。2年後完成を目指して現在工事進行中です。

普段は静かな飯山満川(はざまがわ)

 

「河川の修復工事は、下流から整備していくのが鉄則である」という大原則の中で、当時の県の責任者が、「そうは言っておられませんね」といって数億の予算を割いて現在の工事に踏み切ってくれたことに深く感謝しておりました。今回のことで、大熊教授の「現在のような計画規模を超えた超過洪水では、被害を集中させるのではなく流域で分散・分担する覚悟が必要だ」という論には、目のうろこがはがされた感じがしました。

私は、飯山満川の洪水対策が講じられて二度と同じことが起こらなければよいという、目先の自分の周囲のことしか考えておりませんでした。現在のように、地球規模で災害が大規模化し、いたるところで発生する可能性のある現状では、私のような局部的な対処の仕方では“いたちごっこ”に過ぎないということを知ったのです。大規模化した災害の発生を防ぎようがないのであれば、被害を特定の地域に集中させて壊滅的な被害にするのではなく、被害を分散・分担して軽減を図る知恵が必要だと思います。

県の災害担当の責任者にも、ご参考になると思い、この論文をお送りいたしました。多くの人がこういう認識に立つことによって、ますます巨大化する災害を克服していきたいと念じております。

 

全天候フォレストベンチ工法 施工後追跡調査レポート①

法人会員 中林建設株式会社 営業部

 

今号より、過去に施工した全天候フォレストベンチ工法の実績をみなさんにご紹介します。すでにご紹介した実績もありますが、現在の状況をできるだけ写真で紹介し、関係者の方へのインタビューも実施しました。第1回は和歌山県で施工した工事をご紹介します。

 

<京奈和自動車道紀北西道路根来地区改良工事>

施工場所 和歌山県岩出市

施  工 平成26年10月 ~ 平成27年1月

施工面積 1,508m2

発注者  国土交通省近畿地方整備局和歌山河川国道事務所

 

・当初の施工状況

国土交通省近畿地方整備局和歌山河川国道事務所発注の工事で、近隣に国宝に指定されている「根本大塔」をはじめ、桜・青葉・紅葉など四季折々の景観で多くの参拝者が訪れる根来寺が有り、景観上の観点から全天候フォレストベンチ工法が採用された。

工事概要は、施工面積が「根来地区約827㎡」と「根来南地区約681㎡」の隣接する2現場を施工するというものでした。

左:着工前(根来地区) 右:着工前(根来南地区)

☆根来地区の当初施工状況

根来地区は、完成状態(法面施工済)の斜面に全天候型フォレストベンチ工法を施工致しました。

左:着工状況 右:着工状況(全景)

 

☆根来南地区の当初施工状況

根来南地区は逆巻きの一般的な現場で、アンカー打設及び全天候フォレストベンチの施工を行いました。

左:アンカー打設状況 右:部材設置状況

当初完成全景(平成27年2月)

調査時の全景(令和元年10月)

・現在の状況について

調査日 令和元年10月

道路管理者 国土交通省近畿地方整備局和歌山河川事務所

現在の状況について

上記管理者の和歌山河川国道事務所 和歌山国道維持出張所おいて、現在の状況等のアンケート調査を実施、「施工から約5年が経過し当初の目的である景観については樹木も順調に成長しております。施工していただいた法面については、土質が軟岩の斜面という事で、樹木の生長について心配しておりましたが、全天候フォレストベンチ工法の特徴である水平面で植樹できたので、順調に成長しています。」との事でした。

 

19号台風一過で見えてきた“斜面の恒久安定の兆し”

個人会員 ㈲大島技工 代表取締役 大島利男

フォレストベンチ工法に全力を打ち込んでいる身からすれば、この工法の究極の目的は、緑を育てて斜面が森で覆われることを。先ず思い浮かべます。高尾山から北方向直下に見える八王子ジャンクション工事で裸にされた岩盤にアンカーを打ち、間伐材で垂直面を覆い、堆肥のような埋め戻し土の上に植えられる苗木が大きくなったら、周囲の木々のように根を張って、岩盤を美しい緑で覆ってくれるに違いないと考えました。この時に知り合った栗原理事との会話では、“高尾の自然を守る会“との20年に亘る論争の末に採用されたのだから、一刻も早く裸同然となった岩肌の緑を戻すのが使命であると、聞かされました。しかし私は、コンクリートを使わない方法を用いるなら、自然の暴風雨に打ち勝ってこそ、本当の価値があるのではないかと、生意気なことを言ったのです。

そして工事が終わり半年もすると、高尾山からの眺めは、樹木を植えた範囲だけが緑濃く茂り、その他のり面は草だけの、薄緑に出来上がっていました。しかしこれはどうも、試験的に緑の再生が確認されただけのようでした。続いてその隣ののり面に“崖錐”が存在したこともあって本採用となり、写真のように“20段の巨大なフォレストベンチで斜面を覆うことになりました。それまでで一番大きな規模でしたが、崖錐は苦も無く跨いで通過しました。その後、20年に及んだ論争跡に緑が再生されつつあることに関心を持つ人たちが大勢訪れて、高尾山は大いに賑わったようですが、防災機能について関心を持つ人は居なかったようですが、栗原理事の心中は、穏やかで無かったようです。緑が回復しても、自然の猛威に耐えられないなら、多くの人達を裏切ったことになるからです。その後、緑は時間と共に着々と伸びて、フォレストベンチには何事も起きず、無事でした。

しかし台風19号が10/12(土)に列島上陸後、山梨県境から東京都西部へ進入し、高速道路やJRなど主要なインフラに大量の雨を降らせ、多摩地区代表では八王子市の陣馬街道沿いで大量の人家に被害を及ぼし、翌日は東北の河川を氾濫させて、未曾有の損害に至らしめたのです。実は私が住む栃木県も、近くの思川や黒川が氾濫し、私はその片付けに大童だったのですが、栗原理事から調査依頼を断れず、高尾山の展望台へ向かいました。結果は日野市を含めてオールセーフであり、理事の歓喜の声が電話から伝わってきました。

理事は、河川敷を樹林化すれば、堤防は高速道路並みに恒久安定が実現すると、次の構想を練っています。緑は10年で育ち、その根が堤防を強化して破堤を防いでくれるので、これほど安上がりな減殺法は無い、と確信しています。我々の住む近くには多くの河川が存在しており、気候変動と共に熾烈になっていく台風は我々の命・財産を奪い、不幸を造り出す元凶です。“恒久安定”が、自然の生命体で実現するなら、これほど安い守護神はありません。台風一過から戴いた有難い知見でした。

 

高尾山から見た八王子ジャンクション周辺の景観変遷

―栗原理事の八王子ジャンクションの工事記録―

高尾山から見た八王子城址の山肌は表土が無残に剥ぎ取られ、ジャンクションの橋脚が立てられた後も、緑から見放され閑散としていた

最も高い所で路面から40m、全てののり面が土の水平面で覆われ、森をなしていきました。

 

最も高い所で路面から40m、全てののり面が

土の水平面で覆われ、森をなしていきました。

 

現場だより(令和元年11・12月)

◆台風19号の北上コースの中に、東京都の高尾山を含む多摩地方が含まれていたことは、フォレストベンチの強靭さを確認できたことで不幸中の幸いでした。

◆八王子ジャンクションでの施工を終えたのは2008年秋のことで、植樹して10年が過ぎた時点で“滝の様な豪雨”を受けたのです。

◆中央道と交差する圏央道ののり面は50箇所が崩落し、10日間程通行止めになりましたが、何れもフォレストベンチが採用されていないのり面でした。

◆そして5年前に日野市で施工した住宅街のフォレストベンチについて、峯岸市議に調査をお願いしたところ、全く無傷でした。

◆日野市のフォレストベンチは樹木を植えていないので、今は、人工の引張り力に頼って安定が確保されている状態ですが、今後の気候変動による豪雨に備えるには、早々に樹林化を施しておく必要があります。

◆多摩地方には、“陣馬街道”という山梨方面へ通じる旧街道があり、500軒もの住宅の安否が未だに不明のままとのことで、フォレストベンチによる救出が待ち望まれている、と覚悟しているところです。

 

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