1. HOME
  2. ブログ
  3. STEP(HTML版)
  4. STEP(第185号)

BLOG

ブログ

STEP(HTML版)

STEP(第185号)

傾斜を乗り越えた「全緑化フォレストベンチ工法」
フォレストベンチ研究会 宮崎支部 代表 川添祐一郎

全天候フォレストベンチ工法の命名は、東日本大震災より少し前の2010年、国土交通省へNETIS登録した際に、従来のフォレストベンチ工法と区別することを窓口の方から勧められて、栗原理事が苦肉の策として採用したと聞いています。フォレストベンチ工法の機能について、思案していた理事は、気仙沼市の畠山邸で試験的に採用して戴いた金網を用いたフォレストベンチ工法が、豪雨や地震を幾度と無く耐えて、畠山重篤様から称賛の声を戴いていたことから、咄嗟に思い付いたと、後日聞かされた記憶があります。

気仙沼ではその後、東日本大震災(3.11)で畠山様のご自宅が15mの巨大津波に襲われるという、未曽有の事態が起きました。約10年前に施工してあった母屋の下を防護していたフォレストベンチが、寄せ波にも、強烈な引き波にも耐えて、斜面を守り抜いたことは、多くの人たちの記憶に今も鮮烈に残っていると思います。(DVDにて永久保存されています)

これは、硬いコンクリートより「しなやかな」土の方が巨大破壊力に強いことを裏付ける代表事例となっています。その後、広島市で起きた巨大斜面災害を如何にして乗り越えるか苦悶した理事は、札幌市の双葉工業社様等の協力を得て、実物落石実験に踏み切りました。この成果もDVDにて永久保存されていますが、実験に使用した資材の詳細は、直径19㎜という細い鋼棒(アンカーボルト)と直径6.3㎜のワイヤーロープで支えられたパイプフレームに、30mという高さから80トンの巨石を投げ落とす実験でした。

斜面を駆け下った巨石の激突を受けた垂直のパイプフレーム(受圧板)は、その衝撃で変形したものの倒れず、直立を保ちました。私はこの実験を見て、フォレストベンチ工法で用いている鋼材が極限状態でも計り知れない強さを有しているという安心と驚きを感じました。衝撃荷重に対して天下無双である、つまり全荷重フォレストベンチと名付けても良いと思ったのですが、理事が最初に名付けた名称は「透水衝立」という、実に倹しく奥ゆかしいものでした。現在はコンクリート擁壁に対抗して「透水擁壁」という名称に変更されています。

昨年12月も後半になって理事から作図の依頼がありました。作図の内容は、既に会員の方々には、会報ステップ12月号及び今年1月号の「現場だより」でご存じだと思いますが、福井県池田町の件です。

詳しい現場の状況及び内容についは、ここでは割愛いたしますが、お忘れの方は、再度会報ステップをご参照下さい。

福井県池田町の斜面崩落現場

さて、CAD作図(図-1)に取り掛かって、エッ!とマウスの手が止まった・・・何と傾斜は3分という急勾配で、過去にこんな急勾配ののり面を施工した現場はないはずである。そして、技術の要を成しているのは「パイプグリッド」なのです。「パイプグリッド」は既に5例ほど実績があり、どの現場の顧客にも喜ばれている 「隠れた? ヒット商品」です。 この図を描きながら思ったのは、この3分という斜面勾配は水平から73°という急勾配で、2.5mの垂直高さから、狭いながら75㎝の水平面が生まれることが分かります。

コンクリート吹付工でしか施工出来ないと思われて来た急斜面に、この図面に描かれている様に、本物の緑を植樹することが可能になるのです。これはのり面にとって画期的なことではないかと、気づくのに時間は掛りませんでした。

我が国ののり面は、道路や鉄道など多くの社会資本が整備されるとき、緑化が置き去りにされて、コンクリート剥き出しでの施工を余儀なくされた場所が少なくない ・・・ いや、殆どではないでしょうか。そんなのり面の施工及び修復工事が可能になり、また、パイプフレームの固定にクランプを使用することで、パイプに穴を貫通させる手間を要せずに作業効率を上げることも可能になっています。

私の故郷である宮崎県の日南海岸線ののり面は、まるでコンクリート吹き付けの展示場さながらです。いや、日南海岸線に限らず、日本全国の海岸線ののり面は、間違いなくそうであると思います。その無機質感を払拭出来たら、社会資本の景観は美しさを取り戻すことが出来るに違いないと思いました。

この新しいフォレストベンチ工法に相応しい名前は、全傾斜フォレストベンチ、或いは全緑化フォレストベンチではないかと考えています。

天候から荷重、そして傾斜を乗り越えてのり面の緑化と防災を可能にしてきたフォレストベンチ工法には、今後どのような難関が待ち受けているか分かりませんが、その節目に立ち会えることになれば、有り難いと思っています。

 

民家裏山で修復工事に着手
個人会員 ㈱大島技工 代表取締役 大島利男

正月早々の1月5日(火)、フォレストベンチ研究会のホームページ宛に緊急を告げるSOSのメールが届いたと聞かされたのは翌日のことだった。現場は千葉県安房郡鋸南町という内房の静かな入り江に面した山裾の住宅である。昨年8月に栃木県で鬼怒川が氾濫したときの大雨の余波を受けて、住宅裏山が雪崩のようにすべり、住宅との隙間がびっしりと土砂で埋まってしまったという災害である。

東京在住の種田さんというご一家の別荘で、日頃無人の状態で被災され、現地からの連絡を受けて驚いて、約4カ月後にフォレストベンチ研究会のホームページへ連絡されたということである。急を要するとの要請であり、1月10日(月)に栗原理事に同行して現地に辿りついてみると、予め送って頂いた写真の通り,裏壁が一部へこんだ跡があり、邪魔な土砂はすでに取り除いてあり、トンパック土のうが一列に並べて置かれてあった。しかし、雨の度に泥水が流れ出すので、不気味に感じられたという。

裏山は別人の持ち山だが、持ち主から別荘の保全の為ならいかなる工事を施しても構わないとの了解を得ているとのことだった。

種田邸の裏山は傾斜30°くらいの緩やかな斜面が小さなスキー場のように長さ50m程続いており、同じような大雨を受けると、土砂はいくらでも落ちて来るように見えた。それを見ての栗原理事の案は、裏庭の直上は4段のフォレストベンチとし、その上に透水擁壁 (透水衝立)を設置し、土砂止めで凌ごうというものであった。

現地調査を終って昼食しながら打ち合わせをして、理事から概算額が示されたとき、棚田さんの顔色は一瞬曇ったように見えた。しかし、住宅の裏に車一台くらいのスペースと4段の水平な庭ができることに関心を持たれたようであった。

その後支払方法について検討しますという返事を戴いて帰路についたとき、理事は手応えを感じておられたようだった。

種田さんの反応は12日(火)にメールで届き、消費税を含めれば1千万を超えるので、何とかならないかという内容だったらしいが、少し減額すれば発注したい意向のようだと栗原理事から私に相談があったので、フォレストベンチ4段を3段に変えて、隣家との境界部を強化する案にしたらどうかと提案した。 それで面積は115m2程になり、種田さんの要望通りの金額に収まるからである。それから程なくして合意に達したという連絡があった。種田さんは隣家との取り合いを気にされていたので、この案は効果てきめんだったのだ。

家屋側から見た裏山の被災状況

続いて翌週の日曜日24日に、隣家との立会いと説明に来て欲しいとの要請があり、私が単身伺うこととなったが、両隣の方から、様々な意見が出て、契約書を交わしたいという注文がついた。栗原理事に電話で伝えると、理事はすぐに文案を作成して種田さんへメールで送り、極めて迅速に了解が得られた。

そして、26日(火)には前払い金の入金があり、追って契約書も送られて来たという。

今回の種田邸の件はこれまでにないハイスピードでの手際のよさで工事着工が可能となったが、こちらはその直後から、工事中の仮住まい用のアパート探しに追いまくられる始末であった。

温暖な房総半島なので雪や寒さに苦しむことは少ないと思うが、今回の件で学んだことは、裏山を抱える保養地が被災するケースでは、裏山に階段状の段々畑を設けて宅地を拡げるおまけつきが、フォレストベンチの売りになるということである。宅地が30坪も広くなると思えば、修復費用も費用対効果でかなりの割安感が得られるので、住宅裏山はこれから仕事が増えるのではないかと感じた次第です。現在、2月一杯で工事を終えるべく全速力で進めております。

 

 

被災地復興と観光産業
㈱コンシャス 伊藤元美

21世紀最大の産業は自動車産業でなければ、宇宙産業でもなく「観光産業」であると言われています。UNWTO(世界観光機関)によれば、1993年でその規模は自動車産業を抜き、中国をはじめブラジル、ロシア、インドから生まれた中間層が今後も海外旅行に行くと想定され、現在8億人の観光人口が2020年には2倍の16億人になると予想されています。

そんな中、日本でも京都などに訪れる外国人観光客が過去最高の1300万人に達し、マスコミや政府は日本も「観光大国」の仲間入りをしたと報じていますが、観光客の数は世界ランキングで34位に位置しており、未だ発展途上国と言ったところです。

世界一の観光大国フランスでは観光客が年間8300万人と自国の人口の1.3倍の人が訪れます。その背景にあるのは、フランスの潜在的要素、つまりフランスの土地柄、歴史、文化など本来フランス持っていた観光資源が豊かであった点が挙げられますが、その地位を保つために更なる観光政策強化に積極的に取り組んでいるからです。パリを中心とした都市周遊観光などの歴史的建造物に頼るのではなく、農村(田園)観光(グリーンツーリズム)やエコツーリズム、探検ツアーなど国内全てを外国の人々に開放して滞在を楽しんでもらい、巨大な産業に結びつけているのです。

伊豆大島の遠景

3年前に悲惨な降雨災害を被った伊豆大島は、歴史的観光の島として多くの人々に親しまれてきましたが、被災後の山の斜面からは緑が失われ、火山灰などが剥き出しのまま荒地となっています。三原山の火山活動によって形成された斜面に未曾有の豪雨が降り、樹木が表土ごと流された跡が今も生々しく残っています。

その伊豆大島再生のカギは観光産業の復活にあると言えます。観光客誘致、地域復興の活性化を進めるにあたり、まず、防災機能と平地再生機能を併せ持つフォレストベンチ工法が適役となりえます。前回のSTEP(第184号)のイラストでご紹介したように、フォレストベンチで斜面を階段状の平地とし、そこへぶどうなどの樹木を植えて果樹園にして緑の再生を図ります。

火山灰の地面は一般には植栽には不向きとされていますが、災害時に蓄えられた大量の流木チップを利用して堆肥などと混ぜて土壌改良を施せば豊かな地面に育っていくと思われます。

伊豆大島の空撮

大島の産業はこれまで、沿岸漁業などのほか、椿の花、椿油、くさや、明日葉などに代表される特産品で知られていましたが、フォレストベンチで再生した斜面にぶどうを育てて「大島ワインの里」という側面を加えてみてはどうかと思います。

ぶどう栽培には、オーナー制度を導入して観光客からオーナーを募集します。オーナーには島内の住民の方々と共同してぶどうを育て収穫してワインができるまで大島に通いリピーターとなっていただきます。そして収穫されたワインを各オーナーの名入りのラベルを貼ったボトルに入れて商品として完成させれば良い宣伝になります。

オーナー(観光客)がたびたび大島を訪れることによって宿泊施設も活性化しますし、畑の敷地内にワイナリーなどの併設も必要になると新たな雇用も生まれます。

観光を楽しみたい人々がその土地に長期間滞在し、自分の手も加えて収穫したものを持ち帰るという新しいスタイルの観光産業は、東京から1時間余りという近さだけに、伊豆大島で実現の可能性が高いと思われます。

「大島ワインの里」がフランス、ブルゴーニュの「ロマネ・コンティの畑」のような伝説のぶどう畑になることも夢ではないかもしれません。

フランス ブルゴーニュ地方にある数少ないロマネ・コンティのブドウ畑

南米コスタリカでは、一度失われた熱帯のジャングルが100年を経て蘇えり、今やエコツーリズムのメッカとなっています。植物を育てるには少々時間を要しますが、育てば季節毎に豊かな実をつけてくれます。

これからの観光産業は昔からそこにあったもの(歴史的建造物)や自然の景観に頼るのではなく、そこに住む住民の意志で創造していくものと言われています。

伊豆大島の被災した斜面に次に担ってもらうのは何か、後世へどのような形で残すかを考える大事な時期にきているのではないでしょうか。

 

現場だより

◆1月末に契約の終った千葉県鋸南町の物件で現場施工が本格的に始まりました。

(本文記事を参照)

◆2月19日現在で一段目の凡そ27m2(長さ18m×高さ1.5m)が完成して施主の種田氏も安心された様子です。

◆種田邸の左右隣には、土砂災害の一部が庭へ入り込んで被災された地主が居られ、その厳しい監視の下で、細々としたクレームを受けていたが、工事が進むにつれてそれからも開放された様子です。

◆施主からは、裏庭に当たる一段目には間伐材による被膜設置の要望も出されており、形が見えると景観にも配慮されるゆとりが出るようです。

◆散歩がてら工事を見ようと立ち寄る人が毎日訪れており、立て看板にパンフレットを貼るなど、PR効果も生まれています。

◆技術的な問題を挙げるとすれば、斜面がずれて移動した土砂を相手にアンカー力を打設しているので、地山への到達が深くなる傾向にあることです。何処かで支圧板方式との組み合わせが、必要となる可能性があると考えています。

 

 

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

CAPTCHA


関連記事