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二峰圳(にほうしゅう)の地下ダム

自給シニア会 会員 公文國士

中華人民共和国・湖北省・武漢で発生した新型コロナウイルスが世界に蔓延し、巣ごもりを余儀なくされている。大げさに言えば、対処を間違えると人類の存続に大きな影響を与えかねない事態なのに、である。こんな一大事にもかかわらず、個人的な事柄として言えば、思いがけずまとまった自由時間を与えられたような感覚でいる。有益な過ごし方は数多あるだろうに、これがそうはならない。「小人閑居して不善をなす」とはよく言ったもので、生来怠け者であるためか完全に自堕落の極み。ただただ無為にテレビ三昧の日々が続いている。

テレビ・新聞等の報道によれば、ウイルスは物質に近い、いわば生物と物質の中間のようなものだという。自分の遺伝子情報しか持たず、自分自身では繁殖できないのだそうだ。では、とうやって増殖するか。それは、他の生物の細胞に取り付いて、その増殖機能を乗っ取って自分の複製をつくり存在し続ける。これが、「生物は自ら増えることができる存在」とされている定義から外れるということらしい(「えげつない!寄生生物」成田聡子 新潮社)。

人類が捕食される側から捕食する側になってから久しい。そんな人類にとって最大の敵は、ウイルスなど感染症を引き起こす微生物だ。と、もう一つは皮肉と自戒を込めて人間自身だ。その最強の敵と私たちは今闘い続けている。この闘いに早い段階で大きな成果を上げたのが台湾である。世界保健機関(WHO)から除外され、謂われ無き干渉と圧迫を受けながらも見事に守り切っている。要因は、独自の的確な情報収集・分析能力と、適切で素早い決断の結果だと言われている。孤立化を画策され、自力で対応せざるを得なかったことから来る極めて高い危機意識と行動力である。

その台湾の南部、屏東(へいとう)県に「二峰圳(にほうしゅう)」という地下堰堤がある。「地下ダム」という言い方もされている。とはいっても、コンクリート製の大型ダムが地下に埋まっているわけではない。地下に堰堤を設置し伏流水を堰き止めているという機能から地下ダムと呼んでいるそうだ。

日本の地下水学の権威である秋田大学の肥田 登名誉教授によると、川床に設けた地下堰堤によって溜まった水は、人工の涵養池と同じような機能を持つ。こうして川床にしみ込んだ水は、濾過されながら溜まる。堤を設けて地下水を集めることから、どのような豪雨でも水は濁らず、年間を通して安定した水量が確保できる。緻密な測量と計算によってこの地域が持つ自然の力を最大限に活用できる工法で、農地に灌漑水を送り、清潔な飲料水も確保した。

この構造は電力も使う必要がないため、維持管理の費用は基本的にはかからない。1923(大正12)年に完成して以来、補修や自然災害による破損箇所を復旧する工事はあったものの、今でも現役として稼働し続けている(「台湾に水の奇跡を呼んだ男 鳥居信平」平野久美子著 産経NF文庫)。
設計、開発を陣頭指揮したのは鳥居 信平(のぶへい)。戦前の日本統治時代、台湾に設立された民間企業「台湾製糖」に勤務する土木技師であった。民間施設であったためか、長らく研究対象としては扱われなかったようだ。近年、この卓越した仕組みに注目する研究者も増え、特に台湾では大いに注目されているという。

ちなみに鳥居 信平(のぶへい)は、あの烏山頭(うざんとう)ダムを造り、台湾南部の嘉南平野を肥沃な土地に変えた八田 與一が学んだ旧制金沢四高、東京帝大の先輩であるそうだ。 また、「台湾製糖」への赴任を勧めたのは、「忠犬ハチ公」の飼い主としても知られている日本の農業土木、農業工学の創始者といわれる上野 英三郎博士である。

すでに100年近くを経過しているとはいえ、鳥居信平が「二峰圳」で実現した自然力を融合させた工法は、全く色あせることがない。

フォレストベンチ工法も、水の扱い、樹木根による強度維持など、上記の施設のように地形や周辺環境をうまく活用し、機能を発揮させる。日本は間もなく台風シーズンを迎える。厄介なことだが、これらの防護準備も怠るわけにはいかない。勿論、防疫体制を十分整えた上でだ。

台湾屏東県二峰圳の画像資料
写真の人物は鳥居信平である。

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