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気候変動克服は、引張力が担う

フォレストベンチ研究会 理事 栗原光二

1.「引張り力との出会い、アンカー永久化への展望」

高速道路の建設を目指して道路公団へ入社した私が最初に担当した工区は、岩手県花巻市と盛岡間に位置する紫波町でした。東北道の中でも奥羽山地の山裾を通常の切土・盛土で通過する何の変哲もないルートでしたが、いざ表土を剥いでみると、何と中世の山城跡“柳田館が出現したのです。文化庁との協議では、ルート変更してでも遺跡を避けて欲しい、というものでした。しかし公団は一関から盛岡までの84kmを2年後に開通させる計画であり、本社を含めて、どのようにすれば遺跡保存と高速道路開通が両立出来るか、模索する日々が続きました。そこで浮上したのが(連続地中壁)をアンカーで支える工法でした。

しかし公団にとってその両者共未経験であり、殊にアース(土中)アンカーに関しては土木学会等において「何れ逐次破壊で抜けるからで永久構造物では禁止する」という方針であり、公団も右に倣えの状態でした。中には巨大地震が襲来せずとも、アンカーに荷重が掛ればズルズルと抜けていく、と考える人も居られました。逐次破壊とは、アンカーが引張り力を受けて伸びると、変位が大きくなった所から次々と地山との縁が切れて、終いには抜けてしまうという懸念です。鉄筋コンクリート工学で教わる内容と、同じ考えでした。

直前まで学生だった私にとって、高速道路の開通は初めてだった上に、(連続地中壁)は未経験者ばかり、そして頼るべきアンカーは永久使用が禁止されており、実に心細く私は目の前が真っ暗になり、一人窮地に陥りました。

役半世紀前に高速道路に登場した連続地中壁
壁全面の突起はアンカーの定着部

しかし、ベテランが未経験なら新入社員にもチャンスありと開き直り、アンカーの周囲面のグラウトと地山との接面状態は、コンクリートと鉄筋との関係と少し違うのでは無いかと考え、私はそこにスポットを当てて文献を漁りました。するとある文献に、土砂の膠着状態は一度縁が切れても1~2年経つと、初期強度の半部で復元すると、図解されて説明されていたのです。私は欣喜雀躍し、直ぐさまそれをレポートにして公団本社の技術検討会へ持ち込みました。並み居る先輩方に説明したのですが、逐次破壊説を信じて疑わなかった人達からの反論もなく、疑念は一挙して晴れて、念願の開通も予定通りに実現したのです。

今にして思えば、“レオロジー的要素”(動的平衡)に通じた知恵者が、アンカーの将来を憂えて布石を打たれた資料だったのではないか、と思います。その後数十年して、“アンカーにロック・アースの”差別“は無くなり、土工指針でも、定着力はN値をベースとするアンカー周面摩擦で表現され、アンカーを巡る環境は一変し、合理化が図られています。

そして何より嬉しいことは、紫波町の連続地中壁が、東日本大震災を含む太平洋側海溝型の巨大激震を6度受けて、現在も直立を保っていることです。但しこれからの懸念事項は、アンカー本体鋼材(テンドン)の耐食性であろう、と考えています。

2.引張り力は、進化する

以上、“アースアンカー”が約半世紀も健全を保ったことをご紹介しましたが、この間にアンカーを巡る認識は大きく変わりました。土木事業における引張り力の役割は、アクロバット的に躍進し、社会資本における枢要な技術としての地位を確保しました。

フォレストベンチ工法でも安定の原点として置かれ、気候変動克服の根源とすべく日々工夫を凝らしています。その実態と経過について次に述べてみたいと思います。

A.(一次 発見) 初めてのアンカー使用で、いきなり耐久性半世紀を実現
(定着力の“しなやかさ”は鉄筋コンクリートを凌ぎ、アンカーの永久化を提唱)
生命の世界だけでなく、「動的平衡」は、地中にも存在すること。
アンカーの引張り力の半世紀に及ぶ安全は、営力による災害の抑止に効果的であり、力として長期の安心を生む。土工指針における定着力を改定へと導く。

B.(二次 改善)ボルトの放射状使用で アンカーの多次元化を図り、引張り力の立体使用への道を拓いた。(写真参照)「ワイヤーに比べ5倍の引張り耐力を得た」
“引張リング”と“Vボルトの開発”で、アンカーの支点を多点構造とし、一点の引張り力はタコ足状に広がり、安定と強度向上によって低コスト化した。

引張力を点から面へ拡張し、引張力バランスを高度化した事例

C.(三次 万能化と低コスト)「新型座金の開発」で、引張り力の3D化が実現
引張力の国土防災力を面的拡張で無限へと導いた。気候変動に対し、防御態勢の無限面的広がりで、国土から防災盲点を無くした。(アンカーの不動とパイプフレームの曲げ抵抗の導入及びのり面全体を網で覆い、緑化階段(次のレポート参照)のポケットで、落下土砂を収納し、同時に樹木の根茎でのり面自体の強化を図る)
座金の反力を用いれば、アンカーによる再緊張が可能となり、既存工事の歪み修正によって、正常に戻すことが容易となった。

3.アンカーを固定物と位置付け、安定の“広域化と低コスト化”を図る

D19㎜の全ネジボルトの降伏強度は10トンと規定されています。それを5mの長さのアンカーとして用いると、そのグラウト外周の総面積は、3.14×5㎝×500㎝で計算すると、7,850cm2です。N値(標準陥入試験値)で換算される摩擦抵抗値は最低値10の場合で1.4㎏/㎠ であり、その積で総抵抗値を求めると“11トン”を超えるので、長さ5mのアンカー全体が 土砂の摩擦抵抗で覆われて、抜け出ることが出来ないことになります。
アンカーの引張り耐力より大きな荷重で引かれると、鋼材が破断によって破たんしてしまいますから、外力対して渾身の力で抵抗しますが、「広域化と低コスト」によって広範に受け持たせることにより、安全と安心は向上します。
何れにしても、営力の分担は弾力性の高い鋼材によって、広く分散して分担され、安全も安心も高まります。そこで開発したのが”3D型座金”です。アンカーと4本のパイプを一括に結束して、営力に対し一挙に分散・緩和が実現しました。

引張り耐力が10トンを超えたことは、コンクリート塊にすれば、4m3の巨大物に相当し、通常のり面においてこれを超える営力は少なく、容易に可視化出来る大きさです。
今回の逗子市の事故では、落下した土砂を阻止する抵抗物が皆無であったこと、その存在が見届け無かったことが原因だったと指摘されています。のり面の樹林化も重要要素と考えていますが、樹木の存在は危険の可視化に優れており、安全・安心の要と言えます。大事なことは、のり面の中に低コストで不動を確保する技術では無いかと考えます

4.既設施行事例の更新・修正・修復への対応

気候変動に伴う降雨強度は、現在猛烈な勢いで増加し、フォレストベンチの施工地にも襲い掛かっています。時と共に老朽化・劣化が進みますから、既設の施工地に手を加える必要は感じて参りましたが、記録的短時間豪雨に先回りされたように感じます。

記録的短時間豪雨で捉えると、これまで50㎜が1時間降雨量の目安でしたが、近年はそれを遥かに超える150㎜が記録されること度々です。しかも雨期だけでなく、大気が不安定になれば冬期でも発生するようになっています。気候変動とはこういうことなのでしょうが、過去に照らせば“不意打ちを食らったようで”油断ならない時代を迎えたようです。

昨年初めの石川県能登町の事例では、豪雨の予報を受けて現場に急行した県職員の目撃情報では、民家裏山の水路から流下した豪雨は、5段のフォレストベンチの最下段へ向けてまるで“かけ流し“のように雨水で満たした末に垂直壁が傾き、土砂崩壊に至ったとのことです。垂直壁の背後底部には有孔管が配置してあったのですが、排水が水位の急上昇に追い付かず、土圧と水圧が同時に掛り、引張り力の要であるワイヤーの一部が切れて、破たんに追いこまれた由である。県が施工指導した経過から、埋め戻しに用いた粘土質土が災いしたとの判断で、砕石を用いて修復を実施され、その後は無事である。その後、東京都の日の出町、茨城県の取手市で類似する不具合が起きたが、共通するのは、施工前のり面に埋められていた大量のゴミが、排水の障害の原因を成していたことです。

フォレストベンチ工法は、これまで有孔管埋設によって間隙水圧上昇を阻止できると考えて、無事の記録を更新して参りましたが、今後は予めのり面の土質・地質に留意して、記録的短時間豪雨等の熾烈さに備える必要と、引張り材強化を図る必要があります。

施工済みの箇所の不安と不具合に関しては、前面からアンカーの増打ちとパイプフレームとの組み合わせに加えて、前記「新型座金」の適用による、“再緊張が有効”と考えます。

気候変動に対しては“災害の未然防止”だけでなく、過ぎた時間に対しても責任が持てる
技術と誠意で、対処して行くべき」と考えています。

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