19号台風一過で見えてきた”斜面の恒久安定の兆し”

カテゴリー:

個人会員 ㈲大島技工 代表取締役 大島利男

フォレストベンチ工法に全力を打ち込んでいる身からすれば、この工法の究極の目的は、緑を育てて斜面が森で覆われることを。先ず思い浮かべます。高尾山から北方向直下に見える八王子ジャンクション工事で裸にされた岩盤にアンカーを打ち、間伐材で垂直面を覆い、堆肥のような埋め戻し土の上に植えられる苗木が大きくなったら、周囲の木々のように根を張って、岩盤を美しい緑で覆ってくれるに違いないと考えました。この時に知り合った栗原理事との会話では、“高尾の自然を守る会“との20年に亘る論争の末に採用されたのだから、一刻も早く裸同然となった岩肌の緑を戻すのが使命であると、聞かされました。しかし私は、コンクリートを使わない方法を用いるなら、自然の暴風雨に打ち勝ってこそ、本当の価値があるのではないかと、生意気なことを言ったのです。

そして工事が終わり半年もすると、高尾山からの眺めは、樹木を植えた範囲だけが緑濃く茂り、その他のり面は草だけの、薄緑に出来上がっていました。しかしこれはどうも、試験的に緑の再生が確認されただけのようでした。続いてその隣ののり面に“崖錐”が存在したこともあって本採用となり、写真のように“20段の巨大なフォレストベンチで斜面を覆うことになりました。それまでで一番大きな規模でしたが、崖錐は苦も無く跨いで通過しました。その後、20年に及んだ論争跡に緑が再生されつつあることに関心を持つ人たちが大勢訪れて、高尾山は大いに賑わったようですが、防災機能について関心を持つ人は居なかったようですが、栗原理事の心中は、穏やかで無かったようです。緑が回復しても、自然の猛威に耐えられないなら、多くの人達を裏切ったことになるからです。その後、緑は時間と共に着々と伸びて、フォレストベンチには何事も起きず、無事でした。

しかし台風19号が10/12(土)に列島上陸後、山梨県境から東京都西部へ進入し、高速道路やJRなど主要なインフラに大量の雨を降らせ、多摩地区代表では八王子市の陣馬街道沿いで大量の人家に被害を及ぼし、翌日は東北の河川を氾濫させて、未曾有の損害に至らしめたのです。実は私が住む栃木県も、近くの思川や黒川が氾濫し、私はその片付けに大童だったのですが、栗原理事から調査依頼を断れず、高尾山の展望台へ向かいました。結果は日野市を含めてオールセーフであり、理事の歓喜の声が電話から伝わってきました。

理事は、河川敷を樹林化すれば、堤防は高速道路並みに恒久安定が実現すると、次の構想を練っています。緑は10年で育ち、その根が堤防を強化して破堤を防いでくれるので、これほど安上がりな減殺法は無い、と確信しています。我々の住む近くには多くの河川が存在しており、気候変動と共に熾烈になっていく台風は我々の命・財産を奪い、不幸を造り出す元凶です。“恒久安定”が、自然の生命体で実現するなら、これほど安い守護神はありません。台風一過から戴いた有難い知見でした。

高尾山から見た八王子ジャンクション周辺の景観変遷
-栗原理事の八王子ジャンクション工事記録-

高尾山から見た八王子城址の山肌は表土が無残に剥ぎ取られ、ジャンクションの橋脚が立てられた後も、緑から見放され閑散としていた。              
フォレストベンチ施工中の様子
最も高い所で路面から40m、全てののり面が土の水平面で覆われ、森をなしていきました。