すばらしい命のリレー

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フォレストベンチ研究会 自給シニア会 会員 入井徳明

フォレストベンチ工法は、コンクリートを用いない「土木工法」として、そのスタートから異彩を放ってきた。考案者の栗原理事がコンクリートを極度に遠ざけていたのが原因と思われるが、最近になって少々風向きが変わったように感じる。国交省がコンクリートのり面の点検に乗り出したことと関連するようであり、私も関心を抱くに至った。

戦後の高度経済成長期に合わせて社会資本整備が急進期に入ったとき、コンクリートはのり面の早期安定化の為に大量に使われ始めたが、それが50年という年月を経て老朽化し “余命幾許も無くなる”と同時に、極めて危険な状態に達している。しかし本人に話を聞いてみると、コンクリート余命の中に残っている“付着力”を引き出して最後まで使い切り、“天寿を全うさせよう”という心積りのようであった。

つい先ごろ、“老朽化したコンクリート”にドリルで穴を開けて鉄筋を差し込み、グラウトで膠着状態にし鉄筋を引っ張ってみたら、5本の鉄筋は全て3トンの引っ張り力を発揮したことから、コンクリートは50年を過ぎても使えると確信したらしい。外見上は風化・劣化して今にも崩れそうだが、国が定める規定値の14kg/㎡に対し、それを大きく超える40kg/㎡が確認できたという。

大学では同じ教科書で単位を取った間柄であるが、私の方はこの付着力にお世話になることはなく、剣道に置き換えれば“鍔迫り合いのクリンチ”のように、粘りを発揮する存在のようである。

一方彼は、入社した道路公団での初めての現場で土中アンカーを使用した際、“付着力”と出会っており、高速道路開通の窮地を救ってくれた“付着力”に、今もって恩義を感じている様子である。

それは、東北道の建設予定地に突然出現した“柳田館”という中世の山城跡を保存するための“連続地中壁をアンカーで直立”させた時の経験である。 その付着力が50年を経た後でもコンクリートの中に残存していたことを知ったとき、彼は新たな知見が得られたとして、欣喜雀躍したという。

コンクリートのり面の主流は、“フリーフレーム”という格子状の柱を網の目のように斜面に張り付ける工法であるが、その柱にドリルで穴を空けて鉄筋を差し込み固定すれば、それを反力として新たな鉄パイプをフレームとして固定でき、若い命を吹き込める。次に、階段状の水平な植生基盤に育つ樹木が生長して根を伸ばすと、鋼材より強靭な反力が生まれる。これまでのフォレストベンチ工法の事例で見ると10年以内で森が形成されているから、コンクリートの付着力があと10年命を永らえてくれたら、緑の命がのり面を恒久安定させてくれる、というのが彼の目論見である。

岩を掴む木の根は、
斜面の中に食い込んでいく

コンクリートに差し込んだ鉄筋の安定度は、ドリルの穴が地中へ向けて空けられるので、力学的には重力の援助が得られるしくみであり、定期的に確認すれば安心である。50年を過ぎたコンクリートがあと10年頑張ってくれた後は、樹木が2~300年の寿命に加えて世代交代を繰り返し、恒久ののり面安定、つまり継続的な延命策が実現する。付着力を使い切ったコンクリートは、何れ階段状の土の斜面に埋れて地上から姿を消し、地表を緑に戻してくれる。

これまで、“生命とは無縁”と考えていたコンクリートが、最後の僅かな10年で、我々人間にとって極めて重要な緑を育てる命のリレーの要を担ってくれるとなれば、何とも素晴らしい命の使い道ではないだろうか。