現場報告「コンクリート廃墟との格闘」

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個人会員 有限会社大島技工 代表取締役 大島利男

昨年のフォレストベンチ研究会総会が開かれた翌日(6月21日)に、入井さんとその友人の建築士、そして栗原理事と共に、大田区の田園調布駅の近くで待ち合わせをしました。慣れない道を走り迷いに迷った末に3人と合流した時は、先陣が現地調査を終わった後でした。(この場を借りて深くお詫びします)

目標の場所は、「照善寺」という当地の名刹で、江戸幕府が築かれると同時に開かれたお寺だと聞いていたので、さぞかしひなびたお寺のどこかが崩れていて、その修理を担当するのではないかと、お寺の境内を想像していました。しかし現場に近づいてみると、何とコンクリート打ちっ放しの擁壁で囲われる一画が、見えてきました。

周囲との段差を稼ぐために設けられたもたれ擁壁だが、施工時についた模様は
50年がたっても変わらず自然石には存在しない人工的痕跡が残っている。

地理的位置を整理すると、田園調布という街は、東京都南縁(へり)にあって、世田谷区から西部に至るに町田市などの多摩丘陵、また北部には新宿副都心が臨めて、羽田空港とは隣接して、東京湾の玄関口となっています。多摩川を眺望する高台に立つと、多摩川を挟んで川崎市や横浜市の街並みが遠望できます、暫くして陸路を経て行ってみると混雑で有名な「環状8号線」が意外と便利で、第三京浜を使うと自動車交通にも至便であることが分ってきました。

さて、コンクリート打ちっ放し擁壁の件に戻りますが、施主から直々に伺った話では、施工して50年が経っているとのこと、住職は女性であり何の衒いも無く語ってくれましたが、コンクリートを打ちっ放しにして野ざらしにした場合、50年も経つとコンクリートの痘痕(あばた)は廃墟然としており、かなり醜く映るものです。贔屓目に見て「痘痕もえくぼ」と言っても、他人の持物となると“途端に”厳しくなるものです。

田園調布という最新鋭の住宅地において、コンクリートの痘痕を放置することは、瀟洒な住宅がひしめく風致地区の景観を台無しにしてきた点を早急に改善すべきと思いました。しかもその下の約50坪もの敷地を囲うコンクリート擁壁は、厚さ20cm程の「箱型擁壁」となっており、道路側とその直面方向のコの字型が50年の年月を経て外見も安定度も懸念される様相です。そこで入井さんと栗原理事と私は、無言のうちに目で合図して、パイプグリッドの出番という合意に達していました。

その後入井さんご友人の“建築士”が大田区役所へ呼ばれて「着工前風致対策」を聞かれたときに、コンクリート面は間伐材で覆う案を誇らしく提示したようですが、審査官の反応は「パイプグリッド工法のアンカーの健全性が確認できなくなるので、間伐材を見送る様に」との指導であった由です。アンカー頭部が緩むことは考えられないし、それは定期点検でチェックできることです。風致条例の重みをどのように考えているのか、実に不思議な裁定です。間伐材を用いれば、見違えるような景観が誕生し、風致地区が面目を施すこと請け合いです。

道路幅を超える4mの垂直壁が住宅街に忽然と現れる。
柔らか味・温か味を滲ますには、木材(間伐材)の木目に頼るのが良い。

施主が女性の住職なので、自然に風化・劣化したコンクリートの姿をみても、当然の成り行きと捉えておられたようです。しかし、近年の首都直下型地震や記録的短時間豪雨の恐ろしさには強く反応されて、しかも入居している住人からの不安な声を聴くに及んで、防災・減災への緊急性を感じ、その道の専門家である入井さんから栗原理事へと、要望が伝わった様子でした。

地震について最近大阪や熊本で直下型が続いており、これがもし、もたれ擁壁を襲ったとすると、重量物のコンクリートを放置した場合、大きな禍根が残るであろうと思われます。パイプグリッド工法は、これまでに6箇所程の施行例がありますが、コンクリート壁を貫いて奥の地山へ約5mの延長でアンカーを差し込み、前面のパイプグリッドと地山とを直結するので、その途中に位置するコンクリート壁は、更に安定して耐震性を発揮するようになる、というのが奥義であり妙義です。更に言えば、コンクリートに残存する圧縮力の全てが働くので、高齢者を経済性と共に安全性を維持してくれます。入井さんは千葉成田山新勝寺近くの永興寺において施工したパイプグリッドに、甚く感銘して、その虜となった一人です。

凡そ1か月前から田園調布という異趣の地に住んで感じたことですが、コンビニへ行けばどこでも手に入るモノでも物価が高く不便この上ないし、工事の騒音に関しても規則が煩く、土日は工事内容が制限されます。照善寺の借家人からのクレームに対してもお寺はハレモノに触るかのように神経を尖らせています。パイプグリッド工法は、削孔が先行しますが、早く静穏な作業に移りたいと願う毎日です。